Bellmare
ビッグウェーブをもう一度
〜湘南ベルマーレ再生物語
高田保弾丸ゴール! これで3連勝。でも不満もあった。
いやあ、ものすごいシュートだった。
ショートコーナーからボールを受けて、キックフェイントでDFを一人かわしたと思ったら、その直後にはボールがバーに当たって、ゴールマウス内で弾んでいた。
弾丸ライナーってやつである。決して大振りではなかった。コンパクトに左足を振り抜いた、というかミートしただけだったのだが、すごい当たりだった。
試合後、高田保則は本当に嬉しそうだった。顔中に笑いを溢れさせながら、やや興奮気味でさえあった。ポップな受け答えと、素直な笑みにつられて、こちらも笑顔になってしまうほどだった。
「あんなシュート、練習でもできませんよ! ショートコーナーは別に練習してたわけじゃないです。あっ、でもボール受けた時から左足で打ってやろうかとは思ってました! あのポジションは僕には合ってると思います。自分では。回りがどう思うかはわからないですけど」
高田のゴールが決まるまで、水戸ホーリーホックに1点のリードを許していたことを思えば、あの弾丸シュートは、本当に貴重な一発だった。
そして、2点目もやはり高田保。こちらは素晴らしい動きで生み出した逆転ゴールである。
左サイドでボールが回り、中盤で前を向いた堀へパスが出た瞬間、右サイドを高田が走り始めた。ダラダラとしたポジションチェンジではなく、爆発的なフリーランニング。確信的な動きが、ゴールを生んだと言っていいだろう。
「アウトサイドで深い位置から出て行く仕事をヤスにはやらせている。逆サイドでボールを持った時には、ヤスが上がって行くことは練習通り」と加藤監督も満足気だった。
まさにマン・オブ・ザ・マッチの派手な活躍をみせた高田保だが。昨年秋には網膜剥離で選手生命すら危ぶまれたという。「復活のゴール」なんておセンチな表現をする報道陣もいたが、とにかく水戸戦のプレーは、ゴール以外のシーンも含めて、素晴らしかった。
ナイジェリアで準Vに輝いたチームメートたちの中には、五輪代表・フル代表へとステップアップを遂げている選手もいる。そんな彼らに対して、自分の現在の位置をどう考えているのか…ヤスにきいてみようかと思ったが、やめておいた。
試合後に歓喜の興奮の中にいる彼を冷ます必要はないと思ったので。それに、その手の話は、時間があって冷静な時に、ゆっくりときくべきネタだろう。
そんな派手な高田の陰で、地味な光を放っていたのが堀だ。
2点目のアシストはもちろんだが、キックオフ直後から、ホーリーホックの浅いDFラインの斜め後方へ繰り出し続けたパスは、ジャブのようによく効いていた。ベテランならでは目論見をもったパス、そしてそれを実現する技術は、さすが、だった。
とはいえ前半途中までのベルマーレはあまりよい出来ではなかった。前園や松原が若手に苛立つシーンも何度か見られた。
若手−−特に左アウトの和波−−はひどいものだった。周囲の状況、味方と敵の位置、が見えず、何をするべきか、どこへ動くべきか、パスかドリブルか…すべての判断が曖昧で、意思を感じられるプレーが少なかった。
マズイ…という自覚が、さらに余裕をなくし、ますます自分を消極的にしてしまっているように見えた。
怪我人も多く、メンバーが揃わないというチーム状態もあるが、加藤監督は気長だなあと感心せずにいられないほど、彼らのプレーには輝きがなかった。僕が監督なら、とっくに交代させていたと思う。
監督が我慢強いうちに、せめて成長している証だけでも見せないと、終盤戦、いや未来は開けてこないぞ、とハッパを掛けたくなった。
もちろん彼らの成長が、チームにとっても不可欠なのは言うまでもない。試合に出ていることに満足せず、もっと高みを目指してもらいたい。
そんなこんなで笑顔と不満が交錯したホーリーホック戦だったが、とはいえ、この勝利で、大分、山形、水戸と、3連勝である。
しかも、すべて1点差での辛勝というところが、またいい。白、黒どちらに転ぶかわからない試合で、白をもぎとっていける力こそ、ベルマーレに足りないものだったから。
大勝だって悪くはないのだが、これまで長い間、そんなベルマーレを見てきた身としては、辛勝の方が何だか嬉しい気がする。
それに惜敗続きは、内容まで悪化させていくが、辛勝でも白星は選手に自信を与え、チーム状態を良化させていく。今後に期待が膨らむというものだ。
いずれにしても、この3連勝で勝ち点も……。いや、やめておこう。皮算用はシーズン終盤、昇格争いに入ってから初めてすればいい。
J2シーズンは長いし、それに僕はJ1に上がるためだけにベルマーレを応援しているわけではないから。こんなことを書くと、怒られるのかもしれないが。
それにしても、水戸ホーリーホックはなかなか好感の持てるいいチームだった。最終ラインを高く維持しようという姿勢、そのための4バックのライン操作、終盤ロングボールでのパワープレーに出たために若干間延びしてしまったが、それまでは前線と最後尾とをコンパクトに保ち、中盤でのプレスの意図もよく伝わってきた。
個々の選手のフィジカル・メンタル両面の能力には限界があるにしても、結果至上ではなく、内容を充実させようと姿勢は、高く評価するべきだろう。J2昇格初年度ながら、中位につけている理由が垣間見えた気がした。
さてベルマーレは、次節ありがたいことにお休み。故障者の回復のためには、ラッキーなホリデーだ。その後に続くアウェーでの大宮戦も、ちょっとした大一番となるだけに、積極的な休養を心掛けてほしい。