BOOKS



一瞬の光/白石一文
 今年のベスト1の可能性大。特に僕個人に限っていえば、ダブる点多く、エピソードの一つ一つに感極まり読み進められないことさえあった。そうでなくてもストーリー展開、ディテイルの現実感、心の機微を描く緻密さなど出色。なぜ話題にならないのかが不思議なくらい。1000枚という長さ、知名度のなさ、地味な装丁が原因だとすれば、出版界の良心を疑うばかり。(00.7.16)

スポーツの汀/今福龍太
 評論や科学、ジャーナリズムではなく、スポーツを、その根源に立ち戻り思考を巡らせる、同時にその未来へ向かってイメージする、示唆に富んだ一冊。発想の源。(00.7.8)

放熱の行方/吉岡忍
 尾崎豊の頂点から迷走への軌跡を丹念に追うドキュメンタリー。だが、80年代、バブル期の日本についての考察として秀逸。(00.6.20)

ディア・ベイビー/W・サローヤン
 サローヤンとの出会いはまだ学生時代だった。人生の機微を淡々と綴る印象的な作家。表題作をはじめ、「若い男とネズミ」「はるかな夜」などは自分のことを書かれているようにさえ感じる。(00.4.27)

錦が丘恋歌/富島健夫
 青春の野望全5巻の第1部。学生時代に早稲田の古本屋で出会って愛読した。「青春の門」や「俺の空」など、この手の本は時折無性に読みたくなる。(00.3.18)

甘えの構造/土居健郎
 日本人論の名著。すでに初版から30年近くが経つのだが、いまだに古ぼけない。学生時代以来に読んだが、改めてその質の高さに驚かされる。僕自身が年を重ねた分、共感度が増したという面も。(00.3.9)

遠い国からの殺人者/笹倉明
 直木賞受賞作。読み始めは「?」だったが、読み進むうちにディテイルを積み上げていく文章の説得力に感心。小説は表面(文章)も重要だが、やはりコアになる思いこそだな、と思う。(00.3.1)

オデッサの誘惑/植島啓司
 刺激的な一冊。テーマは「妻または恋人を見知らぬ他人に与える」。古典的名作家や哲学者の引用を散りばめながら、グレイゾーンへ挑んだ実験的小説。スキャンダラスと受け取る人もいるだろうが。(00.2.14)

スティルライフ/池澤夏樹
『マシアス…』以降、これまで見逃してきた池澤作品を数冊購入。連読はしないつもり。表題作は芥川賞受賞作。熱すぎず、離れすぎず、ウエットでもなく、冷めてもいない、独特の静謐な語り口が心地よい。もっとも個人的には併録『ヤーチャイカ』の方が好み。(00.2.3)

「事件」を見にゆく/吉岡忍
 小説ではなくノンフィクションを…と読み始めたのだが、得した気分に。著者の眼差し、それから何よりも表現の適切さに感服。事実を取材すること、その事実の本質を感じること、そしてそれを適切な言葉に置き換えること。(00.1.21)

漂流記1972/三田誠広 
 たぶん10数年ぶりの三田誠広。20歳の頃にはよく読んだものだが、いまはやや辛かった…。この15年の間に僕も変質したということ。(00.1.5)

マシアスギリの失脚/池澤夏樹
 昨年僕にとっての大発見。ある朝忽然と消え、それ自体が主体を持つように現出するバス、自己の投影のように限定された不自由さの中で囁く亡霊、高度資本主義と観念的世界が交錯する高級娼館、それらの間で奔走し迷走し葛藤するマシアスギリ大統領は、いわば経済大国日本と南洋島国のハーフ。さらに登場人物は巫女にゲイカップル…という摩訶不思議な設定ながら、現代社会のメカニズムを解き、現代人のブラックボックスをノックする、物凄く“大きな”物語。とにかくこの時間と空間の広がりは一体何!(それにしてもこの本はなぜ僕の本棚にあったのだろう? 買った記憶はなしなのに。こういう“出会い”があるから読書は楽しい。世間も、本世界も広い。というわけで今年から読書日記をつけることにした)。