BOOKS 2004

 ブエノスアイレス午前零時
 藤沢周って純文学の書き手だったんだ。知らなかった。中間小説の作家だと思っていた。この作風で売れているのだとすれば、日本文学は活況なのではないか。表題作は苦手。べたっとした感じが。そこが肝なのだけど。
 「屋上」はいい。ストアの屋上にある遊技場、中空のペットショップ、狭い柵に押し込まれた無気力なポニーの、しかし深く強い瞳、倒錯した街の風景、遠い砂漠から雑音とともにかかってくる電話への愛執、コミットメントとデタッチメント、そして衝動。共感する。(04.11.23)


 アフターダーク/村上春樹
 なるほど論争が起きるはずだ。一体これは何なんだ? しかもその不安はページをめくるたびにこみ上げてくる。説明の省略は村上作品の常ではあるけれど、これではさすがに意味がわからない。紙幅の残りを意識しながら多くのファンがそうであったように僕も不安と落胆と戦うことになった。そして覚悟していた通りに裏切られる。最終ページまでの時間はその覚悟を受け入れる時間だった。
「傑作か駄作か」以前に「商品化」以前なのである。それが意図的なものなのかどうか、といったあたりが論争点なのだろう。
 ただし、これは村上春樹の作品なのだ。だから論争が起きる。わかったふりをすることもできる。でも、それでは裸の王様ではないか。僕は王様は裸だと叫んだ少年に倣って叫ぶ。「意味がわかりませ〜ん」。村上春樹を王様にしないために。訳がわからなくても皮膚感覚で共感できる彼を20年読んできた読者の一人として。
 阪神大震災の後に書かれた連作集の一編、「蜂蜜パイ」のラストの小説化という特ネタには拍手をするけれど、(いかにベストセラーが約束されているとはいえ)経済活動から離れてしまった作家の未来を僕を憂う。内的作業を続ける仕事であるからこそ、商売やお金とつながっていなければ作家は精神的破綻をきたしてしまいかねないと思うから。病んだり、倦んだりすることなく、村上春樹にはいつも飄々としていてほしい。
 あと本書を読み始めた瞬間、突然はっと気づいたのだけど、「海辺のカフカ」を僕は読んでいない。すっかり失念していた。2002年秋の出版。あの年はそんな年だったのだなぁと妙に納得。(04.11.20)


 ロックンロールミシン/鈴木清剛
 
映画ですでに見ていたが、映画も小説も良かった。結びの章の工夫はちょっと著者の苦労が見えたけど。(04.11.8)

 パークライフ/吉田修一
 
芥川賞受賞作。(04.10.30)

 パイロットフィッシュ/大崎善生
 今度は小説。(04.10.9)

 サッカーの国際政治学/小倉純二

 2002年ワールドカップ直後にFIFA理事となった小倉さんの著書。80年代後半の活性化委員会(Jリーグ誕生秘話)から世界サッカーの伏魔殿まで。ただ「山本昌邦備忘録」もそうだったのだけど、リライターはちょっとマズいのではないか。それとも自筆?(04.8.14)

 滴/神崎京介

 官能小説界の勝ち組。品がよく知性もあり、でもスケベといったさじ加減。(04.7.31)

 聖の青春/大崎善生

 僕が尊敬する編集者の鈴木さんが絶賛している大崎善生を初読。ノンフィクションだったせいかさほどの衝撃なし。(04.7.14)

 愛してる/鷺沢萠
 すごいなあ。才能だよな。決して何度も推敲したようには見えないし、むしろ勢いに乗って書き殴ったような印象すら受けるのに、その言葉、そのセンテンス、その発想、すべてにおいて感嘆するばかり。ホント言葉やストーリーを吟味した痕跡がまったくないんだよなあ。それなのに、これだもん。才能としか言いようがない。なんで死んでしまったのですか? 喪失感です。(04.7.2)

 越境人たち 6月の祭り/姜誠
 
素晴らしい。特に前半部分。後半、論になってしまったのが惜しい。(04.6.11)

 ららら科学の子/矢作俊彦
 
書評で絶賛されている大作。(04.5.28)

 葉桜の日/鷺沢萠
 心の機微を描くのも情景を描くのも上手。(04.5.17)

 ニイガタ現象/「サッカー批評編集部」編
 サッカー批評編集部編でアルビレックス新潟を巡る状況について。J1昇格に合わせて出版。原稿にズレあり。(04.4.25)

 少年A 矯正2500日全記録/草薙厚子
 ルポルタージュとして内容も文章力も秀逸。実際にお会いした著者の物腰と言葉遣いに「えっ」と首を捻ったけど。(04.4.13)

 ちょっとピンぼけ/R・キャパ

 シャンティ(04.3.17)

 J-POP進化論/佐藤良明
 日本(J)の過去から現在に至る弾み(POP)のパターンを、それぞれの時代で人々が口ずさんだ「うた」をたよりに検証しようと試みた日本人・文化論。随所に目からうろこ的な発見はあるが、「心の歴史」を「音符」でたどるという手法自体が難解でわかりにくく、しかも微妙なニュアンスが著者の「パーソナル・ランゲージ(おまけに表音文字)」で記されているので、ちょっと……。、でも、本書のあちこちに散見できる時代論・世代論はスポーツにも応用できるのではないか、と思いながら読了。(04.3.5)

 脂肪/中島唱子
 数年前、それなりの評価を集めていたエッセイ集なんだけど、なんじゃこれは……と前半、何度放り投げそうになったことか。でも、半ばを過ぎる頃から徐々にページをめくる意欲が増してきて……。なるほど、こういうのもありなんだろうなぁ、という感じ。それにしても山田太一はすごいな。プロレタリアたる中島唱子を見出し、プロレタリアドラマに見事にキャスティングしてしまったのだから。(04.2.24)

 アンダーグラウンド/村上春樹
 村上春樹が地下鉄サリン事件被害者に丹念に話を聞き、忠実に文字に書き留めていったインタビュー集。こういう人にこういう仕事をされてしまうと、フリーライターは立つ瀬がない。取材が巧みだったとは思わないけど、それでも真摯な姿勢で、これだけ精緻に時間をかけて作品を作り上げられると、かないようもない。もちろんいまの僕にはこのスタンスで仕事をさせてもらえようもないわけで。それでもテーマの見極め方と、立ち位置の定め方は非常に勉強になった。(04.2.4)

 スポーツエージェント/梅田香子
 最近の新書ブーム(雑誌感覚のニュースな本作り)について実は僕自身は懐疑的で、しかもこの手のネタの本については期待などまったくしてなかったのだけど、本書は面白かった。面白かった理由はエピソードにリアリティがあったことと、知識や情報の集積ではなく「生」経験が最初から最後まで底通していたからだと思われる。著者がアメリカ在住でアメリカンスポーツの現場通だからこそ、ということ。(04.1.30)




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