COLUMN


 天使に見捨てられた夜(00.10.15)


 最近更新できないので、その穴埋めというわけではないだけど、ちょっと本のご紹介(なんか前にもこんなことを書いた覚えがあるけど)。

『天使に見捨てられた夜』(講談社・桐野夏生)

 主人公は女探偵・村野ミロ。彼女への仕事の依頼−−AV女優捜索−−をきっかけに、思いがけない事件に巻き込まれていく、というストーリーだ。帯には「女流ハードボイルド」。
ん? 女流ハードボイルドって何だ? なんて思いながら、読み始めたのだが、読了後、なるほどこれが女流ハードボイルドか、と納得した。

 僕の個人的認識では、男はもともと女々しくて、弱っちいもので、それを自分自身もわかっているから、見栄とか意地とかを総動員して必死にそれを隠そうとしていて、いわばその必死になっている頑なさ、弱さを隠すゆえの強いふり、みたいなものが「男らしさ」ということになるのかなぁ、なんて思っているのだけど、いわばハードボイルドというのは、そういう男意識、自意識、あるいは美学みたいなものを、極めて男的にピュアに、美しい形で結実させた、かなり願望的な小説という認識で(もちろん、だから好きとか嫌いとか、良いとか悪いとかとは全く別次元の話ですが)。

 そんなわけで、僕にとっては「女流」ハードボイルドなんてものは成立しない、というか、もともと強いんだから、そんなものは必要ないのではないだろうか? と思ったわけでした。

 はたして、この桐野夏生さんの小説を読んだ感想は、まさにその通りでした。
 いや、必要ないという方ではなくて、主人公のミロという女探偵は、本当に強いのです。あらゆる意味で。女々しさを隠す強がりもなければ、男々しさ(雄々しさ)に盾つく狭量でもなく、芯からの強さで、事件を追い続け、自己嫌悪を突き抜け、他人の人生の影を感じ、飲み込み、しかし、感情に溺れず…。まあ何せ強いわけで。

 そんなわけで、男流ハードボイルドのように感情移入もできず、ははーっとお殿様の御前で頭を下げている家臣のような気持ちで読み続けることになってしまったのでした。
 もしかすると、ちょうど辻&江国さんの『冷静と情熱…』を続けて読んだ後だったので、男女の弱さ/強さ、女々しさ/たくましさ、をさらに強く感じたのかもしれませんが。
 いずれにしても『天使に見捨てられた…』、なかなか面白かったです。ストーリー的にも面白いし、男女関係を巡るいくつかのテーマを包括しているので、きっとそれぞれの方の読み方で、楽しめると思います。