COLUMN



 シドニー2000TV観戦記(00.9.16)
 スポーツを純粋に楽しめる競技たち。そしてヤワラちゃん金メダルへの道程に思いを馳せて。

 トライアスロン女子。
 今回僕の大お楽しみ競技。もう10年くらい前からウオッチしていて、監督のチームケンズ・飯島や解説の山本光宏らの現役時代もずっと見てきた。僕自身が当時フルマラソンを何度か走っていたし、水泳が得意なこともあって、「いつか必ずやろう」と思っていた。
 もっともオリンピック・ディスタンスの採用で、スピードレースになった時点で、アイアンマン趣向だった僕にとっては、完全に観戦するスポーツになってしまったけど。

 それにしてもテレビ中継はひどかったな。どこかに一人記者を出していれば解決できる問題を放置したままの実況が続いた。おかげで、その隙間をコース紹介という大義名分のもとシドニー観光案内で何とか埋め続けたアナウンサー氏の目の前にどれだけの資料が積まれていたかを想像しながら、僕は観戦することになったのだが、逆に言えば「誰が誰であってもいいじゃん」というスポーツの本質的な魅力を感じられたとも。バイクのハンドルを引きつける上腕の力強さは特に美しかった。

 ちょっとだけウンチクをたれれば、トライアスロンのスイムはいわゆるクロールで泳いでいるが、いわゆるバタ足よりも腕のかきをメイン推進力で泳ぎ、その後のバイク、ランのために足力を蓄えている。また息継ぎのために横に顔をあげるだけでなく、方向と状況を把握するために前へ顔を上げて泳ぐ技術も必要とされていたりもする。
 最後のランでは、気付いた方も多かったと思うが、すでにあがらなくなっている膝を補うために、腕の振りで引っ張っていくような走りも求められる…などなど。なかなか見どころの多い競技なのである。ネイキッドの体の力だけでなく、バイクというハイテク装備も絡むあたりも、トライアスロンとマラソンの大きな違いです。

 とはいえ、上位グループの外人選手たちのラスト5キロの走りは、中距離ランナーのようだった。画面では見れなかったがダイハツ陸上部出身で日本のトップアスリートだった平尾のようにスピードのある選手でないと、51・5キロの短距離レースでは今後勝負できないことは、すでに言われている通り。
 にも関わらずゴールでは、顔をしかめて…ではなく、観客とタッチしながら笑顔で飛び込んでくる選手たちもいたりして、このあたりがトライアスロンの魅力ですね。

 バイクでの2度の転倒でリタイアとなった細谷はとても残念だし、かわいそうだったが、それもトライアスロン。かつてはバイクでのドラフティング違反で、ゴール後に失格になって呆然とする選手もいた。
 しかも今回の日本選手たちは3人とも主婦。すでに精神的にも大人だし、支えるパートナーもいるわけで、悔しさ、やるせなさは抱えつつも、豊かな心で乗り切ってくれるに違いない。
 そんなわけで、「こけちゃいました。しょうがないですね」とソウルで笑いながら語ったマラソン・谷口の人としての奥行きを思い出しながら、午前の観戦終了。

 午後にはビーチバレーが、やっぱりネイキッドのアスリートの姿が見れて、面白かった。スポーツ観戦してるという気分になれる競技をもっと見せてほしいと切に僕は願うものである。
 NO MORE INFOMATION&STORY!

 ヤワラちゃんの金メダルは知人宅で見た。国際通夫妻の「ヘーシンクの家族は…」とか「豪NOCの人たちは…」なんて話を聞きながら、奥さんのおいしい手料理を食べ、ビールやワインを飲んで、なかなか楽しい五輪観戦だった。

 ヤワラちゃん・田村亮子は、その瞬間まで表情一つ変えず、平常心と執着心を保ち続けていた。「最低金、最高金」と自ら語った彼女が、どれほど五輪表彰台の最上段を求めているか、が感じられた。
 だから、その瞬間が訪れた時、審判を振り返り、右手が上がっているのを確認した瞬間に彼女が浮かべた表情、ぴょんぴょんと飛び跳ねて表わした歓びの様子が、とても自然で美しかった。解き放たれた瞬間の、安堵をとばした歓喜。

 記録によれば15歳からの通算成績は200戦近く戦って、敗戦はわずか4つ。10年間でわずか4敗しかしていないのだ。
「4敗しか」よりも「15歳から…」という方にむしろ僕の思いは広がる。僕にとって、15歳なんてまだ勝ちも負けも大した意味がない頃だった。そして、それ以降の僕の人生なんて、負け続け、ひいき目にみても、負けと勝ちの繰り返し、だった。負けて、反省し、次は勝とう、と思い、それでも負けて、時々巡ってくる勝利に、努力が報われた…なんて納得しながら生きてきたようなもんだ。

 でも田村は15歳から、わずか4敗しか負けてないのだ。そんな彼女にとっては、黒星は屈辱的なものだろうし、ものすごく悔しいものだろう。しかもバルセロナ以後に限って言えば、負けたのはわずか2つ。いずれも五輪決勝…。
 なんて彼女の人生を想像するにつけ、本当によかったなあ、と思わずにはいれなかった。

 数分後に同じく金メダルをとった野村は2大会連続。何だか少し策士面、悪ガキ風の雰囲気も醸し出す、ふてぶてしさが、何とも心強い。数時間後のテレビ出演でも、若干シニカルな色も漂わすあたりを見ながら、彼は柔の道以外でも成功するだろうな、なんて思った。

 メダルラッシュの発端を切ったはずの田島は少し陰が薄くなった。でも「あ〜悔しい」と陽気に語る彼女を見ながら、「金がいい!」と駄々っ子のようなその仕草を見ながら、「チャンスがあったのに…」と傍観者にはわからない悔しがり方を聞きながら、まだまだ彼女は競技者なんだなあと気づく。何の汗もかかず、息も切らさず、体の痛みも感じないまま、感動だけ模擬体験する傍観者とのギャップを感じて、せめて…という思いで、ジムへ行く支度を始めてしまう僕だった。