COLUMN

 僕の知ってるB君の話。           03.7.7


 世の中には色々な人がいる。
 そういうことが年齢を重ねるにつれてわかってくるから、人は大人になるとしたり顔でこんなことを言ったりする。
「何が普通かなんてわからないからさ」

 ある時は男女の間でもこんな会話が交わされたりする。紛争時である。
「だってフツウはそうじゃん!」
「それはあなたにとってのフツウでしょぉ!」
「俺だけじゃなくてフツウの人にとってはフツウそうなんだよっ!」
「フツウ、フツウってうるさいわね。このフツウ男!」
「なんだとぉ…おまえこそフツウになれっ!」
「そんなこと言ったって、私にとってはこれがフツウなのよっ!」

 最悪である。答えのない、逃げ道のない、おまけに意味もない会話が延々続くだけである。
 それでも多くの場合、こんなケンカをしたからといって、そのまま二人が別れてしまうわけではない。議論が噛み合わなくても、やることやれば大抵はなぜか解決するものである。いや、ちっとも解決なんてしていないのだが、それでも二人はまるで何事もなかったようにまたキスをしたり、あんなこととかこんなことをしながら、ラブラブな毎日を過ごしていくのである。
「ワタシのこと好きぃ?」
「大好きだよ。俺のことは?」
「大、大、大好きっ!」
「じゃあ俺は大、大、大、大…大好きだっ」
「えーっ、ずるい、じゃワタシは大、大、大、大、大……えっ、あっ、だめっ(馬鹿らしくなってきたので以下省略。あは〜ん、うふ〜んと続きます)」
 とやっぱり意味のない会話を交わしながら。
 つまるところ、とってもフツウな二人なのだ。お似合いである。

 また、ある時はこんなことを口走る人がいる。主に男だ。
「俺、フツウは嫌だからさ」
 ちょっと青い。
 さらに自己陶酔型になると、このセリフはこんなふうにアレンジされる。右手には煙草が必須だ。
「俺、フツウじゃないからさ」
 ふーっ(煙草を吐き出す音です)。
 遠い目なんかしちゃったりしている。キモい。
 まあ、要するにとってもフツウの人なのである。幸せ者でもある。

 ところで、世の中にはこういう方々とは一線を画す本当にフツウじゃない人もいる。僕が知ってるB君はたぶんそっちのカテゴリーに入る男だと思われる。
 ある時、B君は女の子と飲みに出掛けた。見た目はなかなかK君好みだ。でも、話はいまひとつ盛り上がらない。どうも相性がよくないみたい。女の子の方は明らかに退屈している。おまけにちょっと苛々し始めている。危ない。
 そして、ついに女の子が言い放った。
「あなたってフツウね」
 引導がわたされたのである。ガーン。フツウの男ならこれでノックアウトである。デートは失敗、飲み屋を出たらお別れ、間違っても19番ホールなんてありえない。

 ところが、B君、何を勘違いしたのか、相手の目をじーっと見詰めている。そればかりか妙に思いつめた、感極まったような表情だ。そして信じられない言葉を口走ったのである。
「結婚しよ」
 変である。
「あなたってフツウね」「結婚しよ」
 どう考えても、この会話はセットにはならない。
 そもそも普通、男はフツウでないと言われるのを好むのである。フツウじゃない男でありたいと思ってたりするものなのである。だから「あなたってフツウね」という言葉はNGサイン。B君はフラれたのだ。普通はそういうもんだ。
 それなのにB君ときたら「フツウね」と言った目の前の女に、「結婚しよう」とプロポーズしたのである。明らかに間違っている。

 なぜこれほどの大勘違いが起きてしまったといえば、それはすでにお察しの通りである。B君にとって「フツウ」は誉め言葉だったのだ。
「フツウ、素敵!」「フツウ、かっこいい」「俺もいつかはフツウの男になりたい」と日夜願っているB君にとって、「あなたってフツウね」は待ち焦がれた言葉だったのである。だから自分のことを「フツウ」と言ってくれた彼女のことを運命の人だと思ってしまったのである。
 日夜「フツウ」を追い求めるB君。かっこいい。フツウの人から見れば、かっこよすぎるくらいフツウじゃない。

 でも僕は時々想うのだ。
 フツウじゃないB君にとって、このフツウの世界は生きづらいだろうな、と。
 ちなみにB君はいまだに独身である。モテないわけではない。いや、むしろモテている。「B君ってフツウの人とどこか違うのよねー」と言いながら近寄ってきて、とろん、ころん、だめっ、てな感じで目を閉じる女性と時々あんなこととかこんなこととかしているらしい。
 フツウの男からみれば、かなり羨ましい状況である。
 でも、B君は僕と二人になると、突然発狂したりする。
 俺が求めているのはフツウなんだぁぁ! 誰か俺にフツウの幸せをくれぇぇ!
 そんな彼を眺めながら、やっぱりB君はフツウじゃないし、ちょっと可哀そうな人だと僕は思ったりするのである。





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