COLUMN

 小島伸幸についての原稿の切れ端    04.2.6


 原稿を書いていると、ページ数の関係だったり、書いている途中で気分が変わったり、「やっぱりこれはいらない」と方針が変わったりして、削除してしまうことがしばしばです。
 今回、ごっそり削除した原稿があったので、ちょっと載っけてみます。せっかく書かれたのに陽の目を見ないのでは、原稿がかわいそうなので。
 こんな調子で書き始めてはみたものの、「ん? このペースじゃ分量のバランスがとれないな」、それに「この話はそもそも必要なのだろうか、意味があるのだろうか」と疑問になって削除した部分です。
 ちなみに「スポルティーバ4月号」(2月25日売り)に掲載される小島伸幸の原稿の冒頭――は当初こんな調子でした。

                  *       *

 たぶん世間が抱くキャラは明確だ。

陽気で外交的な気のいいベテランGK――。

 でも、実はそんな単純明快な男ではない、と思っている。サービス精神が旺盛なことは間違いない。気さくな人柄であることも否定しない、基本的には。だけど、それが等身大の小島伸幸を言い当てているかといえば、僕はそうは思っていない。

 例えば――もう解禁してもいいネタだと思うので書いてしまうけど――彼がまだベルマーレの選手だった頃、偶然入った小さなバーで彼と出くわしたことがある。土曜の晩、Jリーグの試合の後だ。

客は彼一人だった。きっと一人で静かに飲みたかったのだろう。ゲームの火照りを冷ましたかったのだろう。それはわかる。僕が招かれざる客だったことも。

 それでも、まさかあれほど手厳しい言葉を投げつけられるとは思っていなかった。陽気で外交的で気さくで、付け加えるならば、勝っても負けてもサバサバと饒舌なノブさんと、偶然思いがけないない場所で出くわしたのだ。おまけに狭いカウンターバーに、客は彼と僕だけなのだ。知らんぷりするわけにはいかないではないか。とりあえず挨拶、とりあえず世間話、とりあえず当たり障りのないジョークを一つ二つ飛ばすくらいは許される、というより、それくらいが妥当で無難なシチュエーションだったのである。

 ところが、そんな妥当で無難なトークを一通り終えた僕(もちろん控え目に気を遣いながら、だったのだ)に、彼が発した言葉はたった二言だった。

「なんでここにいるんだよ!」「帰ってくれよ!」

 ガーンである。陽気で気さく? 気のいいベテラン? どこが?

 でも、その時、僕はようやく気づいたのである。彼は決して陽気で気さくな男ではない。いや、陽気で気さくなだけの男ではない。それどころか、本当は複雑で難解なアンビバレントな人間なのだと。小島伸幸、おそるべし。一見わかりやすそうに振る舞っておいて、実はこんな隠し玉を秘めていたなんて。

 そんなわけで(という接続詞に納得いかない人もいるかもしれないけど)僕は彼のことが好きになってしまった。別に惚れたわけではない。彼と話をするのが楽しくてしょうがなくなったのである。どこまでが本音(マジ)で、どこからが冗談なのか、その境界線を見極めながら話をするのがスリリングで面白いのである。

おっと、小島選手、持ち前のサービス精神を発揮して軽快にジョークを飛ばしています。あ、しかし、ここで声色がわずかながら変わりました。もしかして、これは冗談を装った本音(マジ)か、いや、もしかするといましゃべってることは全部ジョークかもしれません。さあ、本音はどこにあるのか……てな感じで。

もちろん彼のことが好きな理由はそれだけではない。当時もいまも酒飲みのJリーガーは極めて少ないのだ。いいトシして、まっすぐ自宅に帰り、部屋でテレビゲームなんてやってしまうのである。おまけにノブさん、競馬まで大好きである。競馬新聞片手に練習場にやってきたりするのである。要するに、僕に言わせれば真っ当な(キムタク&竹内結子に言わせれば「古き良き時代の」)大人の男なのである。

だから、好きなのだ。






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