孫正義(ソフトバンク)VS三木谷浩史(楽天)          04.12.10

 プロ野球が揺れた、そう思っているかもしれない。
 だが、大きな誤解である。いや確かにプロ野球は揺れたのだが、それは巡り巡っての話である。
 興味深いエピソードを紹介しよう。川淵三郎がプロリーグを創設しようとしたとき、当時のサッカー界は猛反対した。その理由にこんな声があった。
「プロ野球でさえ毎年40億円も赤字なのにプロサッカーなんてやれるはずない」
 80年代後半のことである。そう、プロ野球はこのときすでに(それどころかたぶん創設のそのときから)赤字だった。何もいまに始まったことではない。

 では、なぜ揺れたか。
 それは親会社が揺れたからで、つまりは日本経済が揺れたからに他ならない。
 そういえば近鉄とオリックスの合併は日経新聞のスクープで表面化した(フリューゲルスとマリノスの合併も第一報は経済部発だった)。
 要するにこの秋の騒動は本質的には経済ネタだったのである(だからといってプロ野球に問題がないわけではない、もちろん)。

 誤解はまだある。
 ライブドアvs楽天に決着がついた後、ソフトバンクがホークスの買収に乗り出してきたときの解説――いつの世も球団の親会社にはその時代の花形業種がついてきた。今回も斜陽産業に代わり、新たに興隆した業種=ITが球団を保有したまで――も一見的を射ているようで微妙にズレている。
 なぜなら「IT」とはその名の通りテクノロジーであり、あらゆる業種を飲み込むキャリアだからである。その勝ち組であるソフトバンクや楽天は流通業も旅行業も金融業も営む、いわばコングロマリットなのだ。
 ビジネスモデルそのものが変質しているのに「映画の次が鉄道で、その次がITで……」と従来の文脈にあてはめた時点で齟齬が生じてしまう。

 何かと言えば「IT」と一括りにしてしまうのも随分乱暴な話である。
 ソフトバンクと楽天にしても、起業→株式公開→資金調達→M&A→多角化という成功手法こそ同じだが、学者の家に生まれ一橋大、興銀を経て独立した真性エリートの三木谷と、高校を中退して渡米、多国語翻訳機の開発で得た資金を元手に起業した立志伝中の人物である孫とでは人生観も経営哲学も同じであろうはずがない。
 第一世代の孫が事業拡大に苦闘していた頃のメインバンクが興銀で、その担当者が三木谷だったなんて象徴的な逸話も残っている。同じ「IT」とはいえ、違う景色を眺めてきた孫と三木谷が描く青写真が重なるはずはない。

 ただし、一致する思惑もないわけではない。彼らがさらなる成長を遂げるための障壁、つまり規制への挑戦だ。
 携帯電話をはじめ、いま彼らが狙う市場には許認可というテクノロジーでは越えられない壁が立ち塞がっている。これをクリアするツールとして「プロ野球」という国民的権威(そして権威者たちのサロン)は威力十分……。
 これは、はずれてないと思う。


*本稿は「VS」に掲載されたものです。