2006年Jリーグ開幕                         06.3.6


 14回目のオープニングは柏と甲府へ出掛けた。レイソルとヴァンフォーレ。対照的な両チームの開幕戦を見たかったからである。

 結果から言えば、どちらも溜息でゲームを終えた。レイソルは終了間際の同点弾でほぼ手中に収めていた勝ち点3を逃し、ヴァンフォーレは前後半に1点ずつを失い、0対2で完敗。ともに勝利を挙げることはできなかった。
 とはいえ、同じ溜息でも柏のそれは重苦しく、甲府のそれはどこか楽観的に感じられた。入替戦が分けた明暗の余韻がまだ、どちらのスタンドにも残っていたからだ。

 3ヶ月前、大方の予想を裏切ってヴァンフォーレが連勝で昇格を決めた。レイソルは連敗しただけでなくホームで6失点の大敗。しかもヴァンフォーレがその前身、甲府クラブ以来初めての1部昇格なら、レイソルは日本リーグの名門、日立の名を汚しての降格。歓喜と屈辱、まさしく天国と地獄を分けることになった。

 あれからの3ヶ月、レイソル(とそのサポーター)はやるせない現実を噛み締めながら、ヴァンフォーレ(とそのサポーター)は夢見心地で日々を過ごしてきた。開幕戦のスタンドにもそんな彼らの心持ちが映っていたからこそ、柏の溜息はどんよりと重く、甲府の溜息は清々しくさえあった。

 でも、それもここまでだ。これからレイソルの夢が始まり、ヴァンフォーレは現実を背負うことになる。確かにいまレイソルは厳しい現実の只中にいる。地獄かもしれない。しかし、それは未来を、新たなレイソルを模索するリスタートの瞬間と同意でもある。つまり、いまが夢の始まり。これからドリームカムズトゥルーの物語が始まるのだ。

 一方、夢を実現したヴァンフォーレは現実に直面する。それも身も蓋もないほどの超現実だ。
 J1残留という大命題の成否は、早い話が、史上最低予算とのせめぎ合いだ。要するに、無い袖をどう振るか。あるいは、どう集めるか。ちなみに最大予算の浦和レッズとの比較、1対5。これを覆すのは容易なことではない。
 ましてやリーグ戦。一発勝負とは訳が違う。つまりロマンではなくソロバン。なかなかに世知辛い世界だ。プロスポーツの現実。Jリーグも例外ではない。

 だとしても、この週末は感慨深いものでもあった。3ヶ月前あれほど荒れた柏にも、6年前消滅寸前だった甲府にも、「開幕を待ってましたっ」とばかりに老若男女が集い、前のめったり、のけぞったり、とにかく生き生きと溜息やガッツポーズを繰り広げていたからだ。
 どの顔も楽しそうだった。いつの間にかJリーグも風物詩になった、そう素直に実感できる14回目のオープニングだった。


*この原稿は「VS」に掲載されたものです。