湘南ベルマーレ・真壁潔社長  誰がパスをつなぐのか(クラブ編)  06.10.30

 この秋、湘南ベルマーレの練習場および本社が移転した。これまでの大神グランドの所有者が、かつての親会社であるフジタから松蔭大学に変わり、引き続き賃借することができなくなったからである。
 新しい練習場は「馬入ふれあい公園」内にある。日本サッカー協会からの助成金(2億円)により整備された市営サッカー場(天然芝2・人口芝1)だ。大神グランドと同じ河川敷。相模川でいえば上流から下流へ、海の近くに下った位置にある。
 クラブハウスは既存のサッカー場管理棟を平塚市から借用して利用している(「クラブハウス移転問題」については前号に詳報)。本社事務所は馬入ふれあい公園から通りをはさんだ私有地を借りて建てたプレハブ2階建て。

 ちなみにグランドと本社の間を走る市道を少し進むと、日産車体の工場があり、その先には古河電工の工場がある。古川電工の敷地内にはグランドがあるらしい。
 親会社の撤退により「ベルマーレ平塚」から「湘南ベルマーレ」へと生まれ変わって7年が過ぎようとしている。現在の年間予算およそ7億円。J2に低迷している。しかし、この間、NPO法人の設立やビーチバレー、ソフトボールなど総合型スポーツクラブへの挑戦など、斬新なアイデアで存在感は保ち続けてきた。
 そんな「湘南」をホームタウンとするベルマーレの「現在」と「未来」について――真壁潔社長にきいた。

――長い間過ごした大神から移転しました。フジタの撤退によるチーム消滅危機の頃からクラブ経営に関わり続けてきて特別な思いがあるのではないですか。
「ベルマーレは浦和レッズと同じシーズンにJ2に落ちました。いまの両者を見ればわかりやすいと思います。
 つまり親会社のあるチームがJ2には落ちたけれど計画的にチームを作っていけばああなる。一方で親会社のないクラブがその場しのぎで駆けずり回るとこうなるという典型的な例です。
 もちろん、どちらも特徴があります。そしてベルマーレも生き延びている。ただ両者の歩いている道はまったく違うということです」

――新しいグランドは平塚市から借りることになります。
「時間制で使います。大神の場合は、時間を気にせずいつでも練習できたけど、これからは1時間単位で使用料がかかる。細かいことを言えば、2時間ちょっと使えば3時間分の使用料がかかることになる。まあ5分くらいは大目に見てくれるでしょうけど。
 実際には指定管理者制度に指名してもらっているので、その分で相殺される部分もありますが、基本的にはそういう形での使用になります。
 時々、市民クラブを目指しているというチームの方が話を聞きにきますが、本当に行政の支えでクラブをやっていこうとしたら、このレベルの問題からクリアしなければならないということを覚悟するべきでしょうね」

――『市民クラブ』というのは非常にキレイな言葉ですが、現実は厳しい、ということですね。
「そもそも『市民クラブ』というのは何なのでしょうか。例えばプロ野球の広島カープのことを市民球団という人がいる。でもカープにはマツダという親会社がいます。
 僕はむしろ市民クラブと呼ぶにふさわしいのは浦和レッズだと思っています。(三菱自動車との)損失補填契約を解除して、5万人の観客を確保しながら、マーチャンダイズの売上を上げて、自立して経営できるわけですから。日本で最初の市民クラブは浦和レッズでしょう」

――ベルマーレではない、と。
「残念ながら。はじめにも言った通り、レッズとベルマーレはJクラブの中でも経営的には両極端です。レッズにはレッズの、ベルマーレにもベルマーレのよさがある。だから、ベルマーレのようになりたい人はうちを参考にしてくれればといいと思います。
 ただし百年経っても市民クラブにはなれないかもしれない。それを最近は痛感しますね」

――J2には湘南を含めて水戸や草津のように親会社のないクラブがいくつかあります。どこも経営的には厳しそうです。
「それは親会社のあるクラブとは同じであるはずはありません。例えば選手が頑張ってシーズン半ばを過ぎても上位につけていたとします。あと一押し補強をすれば昇格も……となったときに、親会社があれば追加投資をすることができる。新しい選手を獲得するためにあと1億、なんてこともできるわけです。
 でも親会社がないとそれができない。やればその分赤字が増えることになる。誰も補填してくれませんから」

――当然、親会社があるクラブと同じ道は歩けないと?
「歩きたくても歩けないですね。その意味では社長はつまらない立場ですよ。期待するし、勝ってほしいけど、いつもうまくいかなかった場合のことを考えてなければならないですから。強化部が『この選手を獲れば……』といっても安易にうなずくことができない。信じたいけど、常に疑ってないと経営が傾いてしまう。
 とにかく親会社がなければ自ら稼ぐか、主要株主に頼るかのどちらかしかないわけですから」

――ベルマーレの筆頭株主は平塚市です。
「自治体にもそれぞれ事情があります。地域活性化の目玉として、あるいはワールドカップ開催の絡みで積極的にクラブに関わってきた自治体と、平塚市では事情が違います。
 平塚市の場合は、フジタが撤退したことで結果的に筆頭株主に浮上した。能動的に(筆頭株主に)なったわけではありません。それに競技場使用料の減免など、かなり応援してくれている部分もあります。そもそも行政というのは緊急の際に対応できるわけではありませんし」

――今回新たな株主を加えて増資したのはそのためですね。
「はい。これにより財務面を強化しました。やはり勝たなければお客さんは入らないし、勝つためには資金が必要ですから」

――「金のないチームはいい選手を育てて売って経営を成り立たせればいい」という人もいます。
「確かにそういう声はありますね。でも神奈川県には4チームあります。才能のある子供は当然マリノスに行きます。マリノスが獲らなかった選手はフロンターレへ流れる。そこから漏れた選手がうちに入るわけです。さらに小田急線沿線の子供はヴェルディに行くし、小田原を越えるとエスパルスがもうすぐそこです。一県一クラブならともかく、現実には難しいです。
 もちろんリーグそのものを若手主体で戦うという手もあります。その場合は成績を度外視しなければならない。サポーターが我慢してくれるか。新しく誕生したチームならそれも可能かもしれないけど、うちではそれは無理でしょうね」

――かつて強かった頃の記憶がまだ生々しいですからね。となると、一発逆転する手立てはないのでしょうか?
「バックアップしてくれる企業が現れるということでしょうね。スポンサーは単年度づつの契約ですから、そうではなくて資本的に支えてくれる企業。乱暴な言い方をすれば、親会社が発生すればすべて解決しますよ。経営的な視点からだけでいえば、そういうことになる」

――かなり思い切った意見です。
「もちろんJリーグはそういうことを目指しているわけではありません。であれば、長い時間をかけて地域に根付いていくしかないわけです。ただし、それには本当に長い時間がかかります。そのためにはサッカーマーケット自体をもっと大きくしていかなければ。
 ましてクラブを増やすというのであれば、それは不可欠です。サッカーを見に来る観客、支援してくれる企業、それに選手の質も含めて、全体のパイを大きくしていって、初めてうちのようなクラブも生き続けることができる。それをやらずにクラブの数だけ増やしていけば、(各クラブの)観客も減るし、クラブの規模も小さくなるし、下手な選手も増えることになってしまう。
 とにかくサッカー界全体としてパイを大きくすることに取り組まなければ、うちのようなクラブは百年もちません」

――確かにクラブの経営が成り立たなくては、全国津々浦々にJクラブを、という百年構想は絵に描いた餅になってしまいます。
「我々の進む道ははっきりしています。165万人いるホームタウンの一人でも多くの人に『ベルマーレがあってよかった』と思えるクラブになること。それに関してはお金があってもなくても関係ない。
 ここに移転するのは本当に大変でしたが、結果的に公園の中にあることでスポーツが好きな人がたくさん集まってくる。見るだけじゃなくて、スポーツをする人も集まってくる。そしてベルマーレに触れる機会がある。
 大したことはできないかもしれない。でも、健康やコミュニティ作りといった日常的なことで地域の人々を幸せにできるという自信はあります。100%の自信がある」

――「湘南」にベルマーレが存在し続けることで、そんな「未来」を開けるという自信ですね。
「いまはよくても、クラブ経営の危機はまたいつかやってきます。世界的な大企業がバックにつかない限り、必ずやってくる。
 そのときにはたぶん僕はもう社長じゃなくて、次の世代がベルマーレを運営しているわけです。そして僕らがやったように存続問題を乗り越えてクラブを続けていく。だけど目指す未来だけは変わらない。そんなふうにベルマーレが続いていけばと思います」


■真壁潔(まかべ・きよし)
1962年生まれ。神奈川県平塚市出身。1999年フジタ撤退に伴うクラブ消滅危機に、平塚市商工会議所青年部の一員として存続運動に参加。「平塚」から「湘南」への移行を手がける。常務取締役を経て、2004年代表取締役就任。NPO法人の理事長も兼務。



*本稿は「サッカーJ+」に掲載されたものです。