取材ノート(横浜FM×湘南)    誰がパスをつなぐのか(クラブ編)  06.10.30

 マリノス、ベルマーレの両社長のインタビューを読んで、どのように感じただろうか。
 Jリーグにも「勝ち組・負け組」が出てきたのだなぁ――。
 そんなふうに考えたアナタ、間違っている。
 Jリーグに勝ち組・負け組は存在しない。31クラブには31の事情があり、31の存在意義がある。まさしく「31COLOR」。31クラブにはそれぞれに個性がある。

 決してキレイゴトを言っているわけではない。そもそも「勝ち組・負け組」などという物差しはJリーグには適用できないのである。
 経済界であれば勝者は市場を独占し、まさしく勝ち組となることができる。
 例えばキックオフのホイッスルが鳴ったばかりの携帯電話。加入者獲得争いに勝ち、ガリバーとなった企業はさらにシェアを伸ばし、最終的には競合他社を統廃合し、市場を寡占化して、利益を独占することができる。それがゲームの終わりである。

 だが、「Jリーグ」にこの法則はあてはまらない。なぜならゲームの終わりはリーグの終わりでもあるからだ。そう、スポーツは相手がいなければ成立しない。市場を独占してしまえば、ゲームをすることさえできなくなってしまう。
 つまり、リーグに所属するクラブは競争関係であると同時に、共存関係にもあるのである。それがリーグというものの特性である。
 だからこそ、Jリーグは分配金制度を採用している。放映権とグッズ販売をリーグが一括管理し、それを各クラブに(傾斜)配分する、いわゆる“護送船団方式”だ。

 ちなみに目下、経営規模が最小の水戸ホーリーホックはこの制度により、約1億円を受け取っている(2005年度。以下同じ)。総収入は3億円だから、実に3分の1を分配金に依拠していることになる。水戸にとっては経営の大きな柱だ。
 一方、経営規模58億円を誇る浦和レッズが得ている分配金は5億円。水戸の5倍といえば聞こえはいいが、現実に浦和が稼ぎ出している(と思われる)テレビとグッズの売り上げが、この程度であるはずはない。
 要するに分配金制度は、現状、浦和をはじめとした人気クラブの稼ぎを他クラブに分け与えるシステムになっているのである。
 当然、ビッグクラブからは護送船団の解消を望む声があがることになる。ライバルを養う義理はないからだ。だが、分配金がなければ立ち行かないクラブもある。

 10チームでスタートしたリーグは31クラブにまで増えた。クラブ数の増加に伴い、経営格差も広がってきている。「共存」と「競争」というそもそも矛盾する原理を内包するリーグの運営は、格差の拡大とともにますます難しくなってきている。
「共存」に軸足を置きつつもクラブの成長マインドを阻害してはならないし、「競争」に重心を傾けすぎれば経営破綻という悲劇を招きかねない。
 しかも、31クラブはそれぞれに個別の経営事情の上に立っている。インタビュー中では親会社の有無について紹介したが、その「親会社」との関係もクラブによって異なる。「自治体」との親密度も違えば、「マーケット(ホームタウン)」の特性も様々である。Jリーグ事務局には、これまで以上の繊細な舵取りが求められることになる。

 船出から14年が過ぎようとしている。だが、本当の航海はこれから始まると覚悟した方がいい。リーグとクラブがそれぞれに重責を担いつつ、大胆かつ細心に船を進めていかなければならない。
 無論、「理念」の旗は掲げ続けなければならない。そうでなければ、Jリーグはただの興行になってしまう。だが、興行という現実を漕ぎ切って、文化という理想に辿り着く道程がそう容易いものではないことを、僕たち自身もいま一度覚悟しておくべきだろう。


*本稿は「サッカーJ+」に掲載されたものです。