大宮アルディージャ・松崎秀彦事業部長――誰がパスをつなぐのか(クラブ編) 06.2.1

 シンカ――。3シーズン目のJ1を戦う大宮アルディージャのクラブスローガンである。
 1999年、J2創設とともに参入。現在韓国代表を率いるオランダ人、ピム監督の下、6位につけた。以後、(派手さはないが)ステディなサッカーを展開。J2中位をキープしながら、チーム力を蓄え続けた。
 ジャンプアップは2004年。2度目の指揮となる三浦監督とともに長丁場のJ2を2位で走り切り、ついにJ1昇格を果たす。デビューシーズンは13位、2年目の昨年は12位。見せ場が多かったとは言いがたい。それでもこの2年で、何はともあれJ1の舞台に居場所を確保することには成功した。次のジャンプへ向けての助走を始める――そんな2007年である。

 ちなみに埼玉での歴史は浦和レッズよりも古い。1969年の創部以来、ずっとこの地を本拠地としてきた。前身は電電(電電公社=NTT)関東サッカーチーム。いまも出資企業、協賛企業にはNTT東日本をはじめとした関連会社が名を連ねる。
 その電電関東の野球部でプレーし、昨年からクラブの事業部長に就いた松崎秀彦に、大宮アルディージャが挑む<シンカ>についてきいた。

――J1での3シーズン目を迎えます。何はともあれJ1を定位置として、さらなる飛躍を目指す足固めができましたね。
「昨年は「7位以上」を目標にしていましたから、12位という結果には満足していません。ただJ1残留は果たすことができました。これまでJ1昇格2年目に降格してしまうチームが多かったんです。だから我々は「絶対J2には舞い戻らない。ワンウエイチケットなんだ」という強い意識で、思い切った補強もして昨シーズンに臨みました。その意味では順位はともかく、J1に残れたのはよかったと思います」

――今季のキャッチフレーズが「シンカ」。これにはいくつかの意味が込められているようですね。
「はい。まずチームの「進化」。J1の上位に定着できるように進み続けるという意味です。そのために新監督にロバートを迎えました。三浦前監督の契約が満了したこともあり、ここで再び原点に戻ろうという考えです。我々の原点はオランダサッカー。ピムが土台を築き、ずっとその流れでやってきました。今回、そのピムの弟のロバート監督に指揮をとってもらい、さらなる進化を遂げようということです」

――戦力補強の面では?
「昨年は12位に終わりましたが、目標としていた7位との勝ち点差はわずか「4」でした。この「4」が届かない差なのか、到達可能な差なのか、ということについてオフに分析しました。その結果として勝てる試合を落としている。最大の改善点は得点力アップということで、今年は外国人ストライカーのエニウトン(パルメイラス)を獲得しました」

――今季は外国人のエニウトンとレアンドロが目玉というわけですね。昨年は主にJ2に降格したチームから日本人選手を獲得し、実効的な補強を行なった印象があります。しかも、その中から小林大吾という看板選手も誕生しました。
「彼がオシムジャパンに選ばれて、クラブの長年の夢だった日本代表選手を出すことができました。当然、大吾がいることで観客動員にもプラスが期待できます。また五輪世代でも田中(輝和)がいるので、彼ら2人をアルディージャのシンボルにしていきたいと思います」

――その観客動員ですが、正直に言ってこれまでは苦戦しています。昨年は1試合平均で約10200人。マネジメント面では入場料収入の増加が課題になると思いますが。
「その通りです。一昨年より(1試合あたり)300人程度増えましたが、これも目標としていた「12000人」には届きませんでした。ただし、昨年は大宮サッカー場が改修工事で使えないという事情もありました。ホームスタジアムではないにもかかわらず、300人増えたという意味では、サポーターのみなさんに感謝しています」

――大宮サッカー場のリニューアル・オープンが待ち遠しいですね。
「はい。昨年ジプシーだったこともあって、選手たちも「早く(大宮に)戻りたい」と言ってます。ホッとするんだ、と。大宮サッカー場はサポーターとの距離がもっとも近いスタジアムです。スタンドのサポーターにはボールを蹴る音まで聞こえるし、選手たちも応援を身近に感じて戦えますから」

――完成はいつですか。
「11月にはこけら落としのゲームをできると思います。そして2008年シーズンから本格的に使用します。我々としては、それまでにホームタウンの人々ともっと親密な関係を築いていかなければならないと思っています。そのためにアルディージャを身近に感じてもらえるように、いまホームタウンを回っています。より深い関係を結びたいということです。これが第2の「深化」です」

――深化していくために、特に力を入れていることはありますか。
「アルディージャはこれまでも普及活動に力を入れて取り組んできました。サッカースクールは現在8校あって、幼稚園から小学生まで2070人を普及コーチが教えています。いまウエイティングしてもらっているほど好評です。またサッカークリニックを昨年は51回開催して10200人と触れ合いました。それからサッカーキャラバンも63回実施して5500人。また指導者講習会にも600人程度の指導者の方々に参加してもらいました。Jリーグの観戦者調査でも、アルディージャのファンは「30代、40代で10歳以下の子供連れ」が多いという結果が出ています。ですから子供たちを通して家族全員にアルディージャのファンになってもらって、スタジアムに足を運んでもらいたいと考えています」

――先ほど観客動員で苦戦していると言いましたが、それは他のクラブと比較しての話です。アルディージャだけでみれば、1999年の2600人(1試合平均)から少しずつ増えています。
「クラブ創設から地道に続けてきた普及活動が一歩ずつですが成果を出しているのだと思います。同様に、アルディージャ育ちの選手も生まれてきています。昨年は西村(陽毅)が、今年は川辺(隆弥)がトップに昇格しました。ユース年代にも柿沼、渡辺といった将来が楽しみな選手がいます。こちらも時間のかかることですが、着実に育てていきたいと思っています。そしてアルディージャ育ちの選手を大宮の人々が応援する、というようにしていければと」

 昨秋、Jリーグは「Jクラブ個別経営情報」(2005年度分)を開示した。それによれば大宮アルディージャの入場料収入は3億1100万円。これは川崎フロンターレ(2億7700万円)に次いでブービーだった。いかにNTTというナショナルカンパニーが支援しているとはいえ、今後大きく成長するためには観客動員数の改善はアルディージャにとって急務と言える。
 思い浮かぶのは同じさいたま市をホームタウンとするビッククラブである。

――ところでお隣に浦和レッズがあります。同一自治体に2つのJクラブ、それも超人気チームと同居する難しさは感じますか。
「自治体の応援という意味では特に難しさはありません。さいたま市は公平に接してくれています。それに人口規模では、旧大宮の方が旧浦和より多いのです。ですから我々はホームタウン活動を地道にやることで、新しいファンを開拓できると考えています」

――浦和レッズへのライバル意識は?
「レッズはモンスターですから。現状、追いつけ追い越せとは、口が裂けても言えません。ただし、勉強させていただくことはあります。レッズも何もしないでお客さんが入っているわけではありません。すでに4万、5万入っているのに、さらに3000人増やすためにはどうすればいいかと努力している。その姿勢は我々も見習いたいと思っています」

――歴史を振り返ってみれば、レッズよりもアルディージャの方が埼玉との縁は深いわけですしね。
「そうですね。電電関東はNTTの埼玉支店が持っていたチームでしたから。でもやっぱりJリーグ以降のことを考えれば、1993年からのレッズと、1999年からのうちの差は大きいです」

――そういえば松崎さんも電電関東で元選手だったそうですね?
「私は野球ですが(笑)。駒澤大学から電電関東に入って3年ほどプレーしました」

――同じスポーツマンということで、Jリーガーたちとも相通じるところもあるのではないですか。
「とんでもないです。私はアマチュアですからプロの選手とは違います。それよりもむしろサポーターとして長くサッカーを応援してきた経験の方が大きいです。実はJFL時代からサッカーが好きで、NTT関東の試合はほとんど見に行っていたんです。同僚や部下にサッカー部の選手もたくさんいましたし。
 Jリーグ創設直後のブームの頃には、社員サポーターを作るということで、応援のやり方とか太鼓の叩き方をレッズのサポーターに教えてもらったこともあります。その後Jリーグに参画するかどうかの検討をしている頃にも手伝いました。その意味ではアルディージャには人一倍愛着がありますね。だから昨年クラブで働くことになったときにはとても嬉しかった。同時に新しい仕事に不安もありましたが」

――実際にアルディージャで仕事をするようになってどうでしたか?
「想像していた以上に、みんな働いてました(笑)。外から見ていたときは、もっと努力しろよ、なんて思ったりしていたのですが、みんな地道によく頑張っていた。驚きでした。チームのことについては私は応援するだけです。それは変わらない。ただ、いまはフロントの一員なので、負けると胃が痛いですが。お客さんが納得してくれるかどうかが心配で」

――正直に言って、アルディージャはNTTのチームというイメージを持っている人が多いと思います。その点については?
「そういうイメージで見られていることは十分知っています。事実、NTT関連のスポンサーが多いわけですから。でも、これからはホームタウンの企業を中心に新たなスポンサーにもどんどん入ってきてもらいたい。ホームタウンに入り込んでいくことが我々の仕事ですから。
 実は今年も地元企業が3社ほど新規のスポンサーになってくれました。今後も、ホームタウンにアルディージャを浸透させて、地域とのつながりを強めていきたいと思っています」

――まさに深化ですね。サポーターもスポンサーも含めて「ホームタウン」と親密な関係を築き、それが深まれば深まるほど、スタンドのオレンジが濃くなっていくというわけですね。ちなみに新「大宮サッカー場」のキャパシティはどのくらいになりますか。
「15500人です。埼玉スタジアムのように6万人ではありませんから、今年「12000人」を達成すれば、満員のスタンドも現実的になります。そのために選手もスタッフもフロントも一丸となって今季は邁進します。チームを進化させ、クラブとホームタウンの関係を深化させて、新スタジアムに結びつけていかなければならない。つまり2007年はアルディージャの「真価」が問われるシーズンというわけです」
――それが第3のシンカですね。ありがとうございました。



*本稿は「サッカーJ+」に掲載されたものです。