Love letter/岩井俊二
二人の中山美穂と、二人の藤井樹の、切ない、しかし慈愛に満ちたスィートメモリー×2。今年亡くなった氾文雀さんが好演。(02.12.25)
猿の惑星
僕がもっとも好きな映画のひとつ。第一作のラスト、自由の女神のシーンの衝撃は何年経っても消えない。端的にいえばいわゆるタイムスリップもの。しかしSFの要素を排し、哲学的な色が濃い。手法は位相の転換。立場の入れ替わった世界に紛れ込ませることによって、カルチャーショックという舞台設定を作りあげ、戸惑う主人公と、その帰結で人類の愚かさを浮き彫りにする。
さらに第3作では舞台設定を再び逆転させ、要するに元に戻される。猿が人間の世界へ、それも現代とさして変わらない価値観の世界に紛れ込むのだ。今度は異文化に対するカルチャーショックから、異物の混入へのアレルギー反応。そして未来への畏怖。その末に今度は人類のエゴが嫌が上にも浮き彫りにされる。警鐘というにはあまりにきつい、しかし人間の真実の姿を僕たちは見せられる。
その意味で、第2作は第1作から第3作へのつなぎであり、活劇的要素の強い第4作、そして最終作はらせん状に連なる時空的物語を完結させるための作品と言えるかもしれない。
リメイク作は僕にはちっとも面白くなかった。あれではまるで戦国自衛隊だ。エンディングで無理やり「猿の惑星」的世界を醸しだしたという感じ。
余談ながら第3作のコーネリアスとジーラが人間社会に舞い込んだ直後の人々のリアクションは、横井庄一さんや小野田寛さんが「戦中」から現代に突然戻ってきた時の、そして今年拉致被害者を迎えた我々の姿と似ているような気がして思うところ多かった。(02.12)
青いパパイヤの香り/T・アン・ユン
原色の鮮烈な映像美。何がどうなるというストーリーではないのだが、心の襞に染みる叙情的作品。ヒロインの少女期を演じるリュ・マン・サンが奇跡のように魅力的。みずみずしくて清楚なエロスをたたえていて。(02.12.09)
完全なる飼育 愛の40日間/西山洋市
同題材の前作、小島聖よりも、こっちの深海理絵の方が好きだな。小島の淫猥さもすごかったけど、深海の削ぎ落とした凛々しい演技がいい。(02.11.27)
贅沢な骨/行定勲
「ひまわり」と対をなすような作品。心象をはさんで現実から幻想を覗き込んだのが「ひまわり」で、幻想を現実に投影したのが本作品。主な出演者は基本的に主役の3人だけ。永瀬正敏のあっけらかんとした無常感、つぐみの中に淀むどうしようもない疎外感、唯一麻生久美子だけが表す苛立ちの感情。彼女とてかなり抑えた演技なのだが、そんな3人が交わる金魚蜂のような映画の中で麻生だけがみせる心の揺れが生々しい。エンドロール後に覚えるはしごをはずされたような不可解さは、この映画にほとんど説明というものがないからだろう。そのせいで起承転結や理路整然の対極にある真実をしんみりと感じさせる。事実ではなく真実を描こうとした作品。エンドロールで流れるHumpbacksの「Torch
song」がものすごくいい。(02.1113)
ラブソング/P・チャン
しっとりで静かで、それでいて重苦しくない(コミカルささえ漂う)ラブストーリー。テレサ・テンの歌が随所で流れる。マギー・チャンがいい。『欲望の翼』でもそうだったが、強くて切ない役をやればピカイチ。(02.10.29)
いまを生きる/P・ウィアー
大学時代、大親友の長谷川と「あの映画を見てどう思ったか」「あの小説の意味は何か」なんてことを夜な夜なやっていたあの頃に、彼が強く推していた映画。何年ぶりに見たのかなあ、と指折ってみたら18年! 年月が経っても名画は色褪せないものだし、人間も変わらないものらしい。(02.10.11)
ユリョン/M・ビョンチョン
ラストシーン。「強くなければ踏みにじられて生きるしかない。つい最近まで我々の歴史はあらゆる屈辱に耐えてきた。まだ終わってないんだ。傲慢なアメリカ野郎や日本人野郎に五千年の歴史は渡さない」(02.8.21)
にっぽん零年/河辺和夫・藤田繁矢(敏八)
1968年夏、東大生の活動家と新宿のフーテン少女を追ったドキュメンタリー。撮影中止命令によってお蔵入りしていたドキュメンタリーが、34年ぶりに公開。
にっぽんの0年期の若者たちの、滑稽なまでの真剣さ。あの本気の熱やエネルギーは、にっぽん34年のいま、どこへ行ったのだろう。(02.7.30)
ひまわり/行定勲
僕がひそかにファンでいる麻生久美子とGOの行定監督のカップリング。麻生久美子の儚さがいい感じで映像化されている。(02.3.16)
三文役者/新藤兼人
素晴らしい役者と素晴らしいスタッフと、そして何より特別な思いがあれば、素晴らしい映画ができる。(02.2.10)
スローなブギにしてくれ/藤田敏八
少し酔って見たことを差し引いたとしても、結局、僕はこの手の映画が好きなのだと思う。80年代の角川映画、そしてATGの洗礼を受けて育った世代ということだろうか。いずれにしても、映画を見ながら自分の人生の様々なシーンが次々と蘇り、そればかりかこれから先の人生の憧憬を描いてしまった。
(01.12.23)