MOVIES 2003

 A・A2/森達也
 1998年と2001年に発表されたドキュメンタリー。オウム真理教の内部から外部へ向けたカメラが「オウムの人々」と「オウム騒動」を暴く。「A」の中盤、警察と信者の路上でのやりとり、そして猿芝居の陳腐さに前世紀末のこの国の真の姿が垣間見える。教義を拠りどころにする狂信的な若者たちよりも、体制的な正義を振りかざす警察官に僕は恐怖を感じた。しかもその正義と権力が国家を代表しているのだから、怖くて仕方がない。
 それにしても森達也、すごい。オウムばかりか、右翼の街宣車にまで乗り込んでしまうのだから。そして何よりすごいのは、彼の刃が立場と肩書しか拠りどころのないマスコミ、つまり自らに向けられるところ。「放送禁止歌」で切り込んだ自己規制の正体を明らかにした時もそうだったが、彼は石が自らに落ちてくることを覚悟して、それでも力を緩めず思い切り投げているのがすごいと思う。(03.11.4)

 ロックンロール・ミシン/行定勲
 やっぱり行定勲の映画は好きだな。いつも思うのだが、色が何とも言えず、いい。中でも僕の一番のお気に入りは「贅沢な骨」だけど。(03.11.1)

 夏至/T・アン・ユン
「青いパパイアの香り」同様、透明な空気感を透かしての鮮烈な映像が画面に映える。そして、これまた「青いパパイア…」同様、たおやかな時間の流れと営々と息づく日常が淡々と描かれる。もっとも「夏至」では三姉妹の女の葛藤が日常をわずかに歪ませたりもするのだが…。
 とにかく扇情的なシーンも映像も皆無なのに、どうにもこうにも官能的で、女性の湿った滑らかな肌の手触りを何度も想起してしまう。トラン・アン・ユン監督の凄い資質。(03.6.13)

 初恋の来た道/チャン・イーモウ
 チャン・ツィイーはかわいい。本当にかわいい。そんな彼女の可憐さが監督のものすごい執心によってさらに際立つ。彼女のプロモのような美しい映像をあれだけつなげる偏愛ぶりは羨ましくさえ感じる。(03.5.5)

 東京ゴミ女/廣木隆一
 主人公の同僚役で出ているのが柴崎コウ。「背景」になってたまるか、みたいな意地が見える演技。頭角を現す人というのはこういうものだ。あとエンディングテーマ。いいなあ、でもどこかで聞いたことあるな、と思ってたら、「アナザへブン」の挿入歌だった。wyolicaの「さあ行こう」。(03.5.1)

 ラブ&ポップ/庵野秀明
 仲間由紀恵が主人公の親友役で共演。他にも平田満,、吹越満、モロ師岡、渡辺いっけい、浅野忠信、森本レオなど豪華な顔ぶれが随所に登場。コギャルたちが都会のドブ川(神田川かな)を胸を張って黙々と闊歩していくラストがかっこいい。(03.4.27)

 忘れられぬ人々/篠崎誠
 ベテラン名優4人の共演。戦地での絆、決して消えることない自責の念、だからこその覚悟とオトシマエ。(03.3.31)

 シッピングニュース/L・ハルストレム
 灰色の空、冬、崖、海から吹きつけるすさんだ風、冷たい眼差し、血塗られた過去、鎖で縛りつけられた家。しかし、人は救われる。(03.3.18)

 流星/山中浩充
 緒方拳演じる一見冴えない、しかし年輪を経た凄みを感じさせる老人と、江口洋介演じる粗野だが実はデリケートな若者が、変身願望を抱えた女子中学生とともに、盗んだ競走馬を連れ歩くロードムービー。劇中に登場する上山競馬場にはちょっとした思い出があって、もう十年くらい前に「DENIM」という雑誌で「競馬を巡る冒険」という企画をやった時に訪れた場所。深夜バスで全国の地方競馬を巡る企画だったのだが、高知、荒尾、名古屋と回った後に辿りついたのが上山だった。駅前に公衆温泉があって(確か50円だったと思う)、そこで地元のおじいちゃんやおばあちゃんと話し、上山名物の玉こんにゃく(確か100円だったと思う)がとてもおいしくて、あの旅で巡ったいくつかの競馬場の中で僕の一番お気に入りだった。上山競馬場は今年1月に「廃止」報道されたが、とりあえず現在のところは縮小しながらも存続している。(03.3.10)

 山の郵便配達/フォ・ジェンチィ
 中国湖南省の山間部を徒歩で巡る郵便配達。父から息子へと受け継がれる、過酷で地味で出世にも直結しないそんな仕事を通して、父の偉大さ、人々の営み、大人の男になるということ、親子の情愛などを描いた名作。村から村へ三日がかりで手紙を配って歩く親子のスピードが映画のリズムとなり、ゆったりと確実な手応えとなって伝わってくる。「バスを使えば…」とうながす息子に父が淡々と、しかし頑なに語るセリフ、「道は自分の足で歩くものだ。楽をしようと思ってもいいことはない」に、仕事とはどういうものであるか、プロフェッショナルの矜持、そして、その人間が成してきたことへの真価を見る思い。それほどの手応えのある仕事をできにくい世の中であったとしても。(03.2.8)

 スパイゲーム/T・スコット
 さすが名手。エキサイティングでスリリングでかっこいい。そして「昔は善玉か悪玉か、はっきりしていた。大義があった」というレッドフォードのセリフに、ハリウッドの良心が映る。(03.1.30)

 キスより簡単/若松孝二
 ねぇ、私ってセックス狂なのかなぁ、だって色々な男と寝るたびにもっとどんどん男が欲しくなる。とっても小さな穴なんだけど、埋めても埋めても埋まらない穴が空いてる気がする。ねぇ、一生懸命に生きるってそんなにオーバーなことじゃないよね……。こんなセリフがとてもサマになる早瀬優香子、唯一の主演映画。ブレイクなんてしなかったけど、彼女はとっても気になる歌手であり、女優だった。「サルトルで眠れない」という曲で彼女と出会ったのはいつだっただろう? 危なっかしさと妖しさと気だるさを湛えた個性的で魅力的な女性だったのだけど。フェードアウト的に活動休止に入り、もう何年かな。また歌いたい…という噂も小耳にはさんだが。(03.1.21)

 この森で、天使はバスを降りた/ズロートフ
 大好きな映画。この映画を見ると『カウガール・ブルース』を思い出し、『カウガールブルース』を思うとこの映画が見たくなる。(03.1.14)

 インサイダー/M・マン
 雪印牛肉偽装事件の西宮冷蔵社長による告発を契機に、昨年日本でもちょっとしたビジネステーマになった「内部告発」をテーマにした映画。しかし、「告発者」の苦悩よりもむしろ丹念に描かれる「告発」を伝える側のモラルと責任に、報道者としての矜持を問われているような気分になる。取材対象との距離、取材源秘匿の義務、そして社会とも会社とも戦う姿勢などなど。もちろんメディアとて、巨大組織であろうがフリーランスであろうが、経済原則という手かせをはめられているのだが、それでも…の先。いわば魂。アルパチーノのセリフ「Are you businessman? or news man?」を吐きたくなる場面は僕の周囲でも少なくない。(03.1.2)



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