soccer

 日本代表合宿@新潟        05.5.20〜22


「僕、この前、新潟に行ったじゃないですか。そのとき、ショックな言葉を聞いたんですよね」
 休憩を終えて洗い場に戻ったアキラが、ワタナベとコジマに話しかけた。ペルーとのキリンカップを見るために、アキラが新潟を訪れたのは先月のことだ。
「そういえば試合だけじゃなくて、練習も見たんだってね。ジーコは練習も公開するからね。シリクで見たんだっけ?」
「シリク?」
 アキラの問いかけにワタナベがニヤリと笑って答える。
「新潟市営陸上競技場。略して市陸。あそこのスタンドの向こうに歩道橋があっただろう?」

 そう言われて、アキラは記憶を呼び戻す。
 サッカーでいえばゴール裏、陸上でいえば第3、第4コーナーのカーブの向こう側に、確かに歩道橋が見えていたような気がする。
「あそこからピッチが見えるんだけど、4年前はそれが問題になったんだ」
「4年前? ということはトルシエの頃ですね。あ、そうか『非公開』だったからだ」
「ほう、アキラくんもかなりのサッカー通になってきたね。その通りだよ。でもあの頃の『非公開』はファンやサポーターに見せないというだけじゃなくて、報道陣にも見せないというものだったけどね。とにかく、あの歩道橋にトルシエが難癖つけたんだ。あそこから練習が見えるとね。それで、確かあのときは歩道橋の上で立ち止まらないように係員まで置いたんじゃなかったかな」

 4年前、日本代表が新潟を訪れたのはコンフェデレーションズカップのときである。
 2002年ワールドカップの1年前、シミュレーションとして行なわれた大会だった。こけら落としから間がなかったビッグスワンでは、直前招集された鈴木隆行がボレーシュートを決めて、カメルーンを破った。鈴木はそのままワールドカップのメンバー入りも果たし、そればかりかベルギー戦でゴールを決めた。さらにベルギーリーグに移籍することにまでなるのである。アスリートの人生はわからない。
 コジマが会話に加わってきた。
「ホントあの頃は信じられないことをやっていたよな。有料紅白試合までやったんだから。それがいまはメディアはもちろん、ファンにも大サービスだからね」

 4年経ったいま歩道橋に係員を配置する必要はもちろんない。ファンたちはスタンドに座って日本代表の選手とトレーニングを堪能することができるからだ。
 ピッチには最終予選真っ只中とは思えないのんびりムードが漂い、スタンドからは「イナモト〜」、「オオグロ〜」と黄色い歓声が飛ぶ。
「公開、非公開はさておくとして、いまにして思えば、トルシエは見られては困る練習をしていたということではあるよな。一方、ジーコは見られて困るような練習はしない。だから全面公開」

「それでアキラくんが聞いたショックな言葉ってのは何だったの?」
 ワタナベが思い出したように尋ねた。
「あっ、そうでした。僕が見に行ったときにはアルビレックスのユースと練習試合をやったんですけど、日本代表の選手がユースの選手にチェックを受けて、倒されて、ボールをとられたりしてたんですね。それを見ていた子供……小学校の高学年くらいかな、が『こんなんでバーレーンに勝てるのかね』と友達と話してたんですよ。子供だから見たままに言うじゃないですか。それ聞いて、僕、何だかショックで」
 思わずワタナベは苦笑した。
「ははっ、なるほどね。子供が容赦がないからね。それに正直だし。そりゃ困ったもんだ」

    〜「Far East Football Cafe」第10回(ストライカーDXにて連載中)より抜粋